第156回6月例会
開催日:2024年6月1日(土)16:00 ~ 17:25
会場:明海大学 浦安キャンパス(〒279-8550 千葉県浦安市明海1丁目)
講義棟 1階 2101 講義室
<研究発表>
第1発表16:00〜16:40(発表16:00〜16:25 質疑応答16:25〜16:40)
発表題:戦後の作家たちの見た<アメリカ>
発表者:本間章郎(法政大学)
司 会:河野智子(神奈川工科大学)
発表要旨
太平洋戦争の敗戦とポツダム宣言の受諾、アメリカによる占領と主権の回復を経た、新安保条約の
締結までの期間は、戦後の日本とアメリカの関係を決定づけた時期として考えることができます。 高度成長期を迎えると共に、アメリカ的生活スタイルや価値観が急速に日本人の中に深く浸透して
いきますが、東アジアにおける進展する共産主義の拡大を阻止するために、アメリカは日本の共産
主義化を阻止しなければならないと考えていました。大学の教員・学生といった日本の知識人は、 共産主義者に洗脳される可能性が大きいという危機意識から、文化交流によって日本の知識人がア メリカを知り、アメリカと民主主義の基本的な価値観を共有し、ひいては日本国民全体が同じ事を 認識することが重要だと考えられました。そのための具体的な取り組みとして行なわれたのが、ほ ぼ10年間に渡るロックフェラー財団による、日本人作家・批評家のアメリカ留学プログラムです。
選ばれた作家・批評家たちの多くが帰国後、アメリカの体験をそれぞれ旅行記あるいは滞在記とし
て執筆しています。本発表では、国内では占領期の終結から新安保条約の締結へと、戦後日本とア メリカの関係が形成される過程の中で、ほぼちょうど同じ時期に作家・批評家たちがどのように< アメリカ>を体験し、どのように<アメリカ>について考えたのか考察したいと思います。取り上 げる作品は、大岡昇平『ザルツブルクの小枝』、安岡章太郎『アメリカ感傷旅行』、庄野潤三『ガ ンビア滞在記』、江藤淳『アメリカと私』です。旅行記や滞在記は、著者の体験を書くノンフィク ションであることが、そのジャンルの前提としてありますが、取り上げる作品は、フィクションの 要素が完全に排除されているとは言えません。中には、小説に近いもの(あるいはほぼ小説)では ないかと思われる作品も含まれます。本発表では、上述の作品を中心として、戦後日本の文学にお いて大きな存在であった作家・批評家が抱いた<アメリカ>への概観を見ていきます。
第2発表16:45-17:25(発表16:45〜17:10 質疑応答17:10〜17:25)
発表題:A Needs Analysis for English Literature Classes in Japan
発表者:Chang Tekka(Meikai University)
司 会:Yutai Watanabe(Hosei University)
発表要旨
According to Townsend, in America, "during the past decade the study of English and
history at the collegiate level has fallen by a full third" (Heller, 2023). On the other hand, what is the situation in Japan? Is there a decline in students majoring in English Literature? What are the needs of Japanese students who take English literature classes? At the university where I currently teach, each year, there are more students specializing in Global Studies than in English literature in the English department.This led me to examine whether there is a gap between the needs of students who study English literature, and how English literature is being taught in the classroom.
In this presentation, the results of a qualitative needs analysis will be presented.
The study examined English literature, English linguistics, and Education majors, from a university in Japan through a semi-structured questionnaire. Some key themes that arose from the study are the need for excellent oratory skills on the part of the instructor and the need for more student-centered literature classes. The presentation will conclude with suggestions from the researcher and a group discussion on possible ways to capture the needs of the students who are taking English literature classes in Japanese universities.
第155回3月例会
開催日:2024年3月2日(土)16:00 ~ 17:25
会場:明海大学 浦安キャンパス(〒279-8550 千葉県浦安市明海1丁目)
講義棟 2階 2201教室
<研究発表>
第1発表16:00〜16:40(発表16:00〜16:25 質疑応答16:25〜16:40)
発表題:American and British Accents in New Zealand Films
発表者:Yutai Watanabe (Hosei University)
司 会:Masashi Kawashima (Nihon University)
発表要旨
In an effort to ensure the commercial success of a feature film, producers may cast
international star actors in key roles, necessitating that these actors often acquire
and perform with an accent distinct from their native one. This paper delves into how
American and British English-speaking actors’ accents are addressed in films where they
portray characters meant to be New Zealand (NZ) residents; it is well known that NZ
English markedly differs from other varieties of English in pronunciation. An analysis
of nine locally produced films finds a number of strategies to circumvent potential
challenges with accent authenticity: (1) seeking an actor whose natural speech closely
matches that of a character with regard to stereotypical phonetic features, (2)
incorporating dialogue within scenes to elucidate a character's individually unique
linguistic background for the audience, and (3) designing a plot where a character is a
temporary visitor or recent immigrant from other English-speaking countries, among other
methods.
第2発表16:45?17:25(発表16:45〜17:10 質疑応答17:10〜17:25)
発表題:第二言語をめぐる言語態度
発表者:渡辺英依美(法政大学)
司 会:三幣友行(東京都市大学)
発表要旨
従来、第二言語の習得レベルが高い話者は、自他共に関わらず第二言語の訛りに対して否定的な態
度をとりがちであるとされてきた(Dewaele & McCloskey, 2015)。本発表では、英語母語話者の日
本語訛り英語に対する言語態度を、日本語に関する言語知識との関連で検証する。イギリス英語を
母語とする被験者が、英語モノリンガルと2種の日英バイリンガル(早期バイリンガルと後期バイリ
ンガル)による録音を聞き、訛りに対する言語態度と母語同定に関する質問に答えた。その結果、
日本語の学習経験が必ずしも日本語訛りの同定につながらないケースが確認された。これは、英語
母語話者が日本語訛りと他のアジア訛りを識別できないという一般的傾向に沿うものである(e.g.
Gnevsheva, 2017)。
第154回12月例会中止
第153回6月例会
日時:2023年6月10日(土)
会場:昭和女子大学 8号館西棟 5S42教室 (予備:5S43教室)
<研究発表>
16:00〜16:40 第1発表
発表題:工学教育における英語論文読解指導法の検討
発表者:今滝暢子 (日本大学)
司 会:小野雅子 (明海大学)
発表要旨
工学系を専門とする大学生が英語運用能力を身につけることの重要性が指摘されて久しい。英語運
用能力にも様々な側面があるが、技術者・研究者として活躍するためには、ジャーナルに掲載され る英語論文を読みこなし、最新の情報を取り入れ続けることもひとつの不可欠なスキルと考えられ る。
しかし、一見すると英語学習のためのリソースには事欠かない現代にあっても、日本の大学生が英
語論文の読解スキルを十分に修得して巣立っているとは言い難い状況にある。発表者の所属する理 工系学部の学生からは、「単語が難しい」「読もうとしても途中で読む気が失せてしまう」等の声 が聞かれ、教員からは「ゼミの学生が英語論文を読めなくて困る」と憂えるコメントも届いてい る。
「学生が英語論文を読めない」という問題は、学術論文中に学生にとっての未知の語彙が多いこ
と、読解に時間がかかりすぎること、動機づけが不十分であること、あるいは、英語論文読解のた めの体系的な指導が行われていないこと等の、様々な要因が複雑に絡み合って構成されていると考 えられる。
工学系分野で学ぶ大学生が、自分の専門内容の論文を「読める」ようになるための一助として、合
理的な読解のための指導法を打ち出すことは、現代における学習者および教員のニーズに応えるも のであると考えられる。本発表では、日本の大学における読解指導の現状を概観した上で、工学系 分野の学生を対象としたより効果的な指導のあり方について検討する。
16:45〜17:25 第2発表
発表題:パーシグ『禅とオートバイ修理技術―価値の探求』―実験小説におけるプラグ
マティズム
発表者:上野俊一 (日本大学)
司 会:本間章郎 (駒澤大学)
発表要旨
ロバート・M・パーシグの『禅とオートバイ修理技術―価値の探求』(Zen and the Art of
Motorcycle Maintenance: An Inquiry into Values, 1974) は、世界的ベストセラーであり、最も 売られた哲学書のひとつである。「クオリティとは何か」という形而上学の問題の探求とミネソタ 州ミネアポリスからサンフランシスコまでの17日間のオートバイでのツーリング体験を組み合わせ たこの哲学小説は、パーシグにとっての壮大な実験であり、そのアプローチはエマソン、ソロー、 ウィリアム・ジェームズといったアメリカ思潮の主流であるプラグマティズムの流れを汲むもので ある。例えば、オートバイに乗ってツーリングする自分をプラトンの対話篇のひとつである『パイ ドロス』の登場人物であるパイドロスに見立て、ナレーターとしての自分をソクラテスに見立てる ことにより、「クオリティとは何か」といういわゆるハード・プロブレムに立ち向かおうとする。 この発表では、『禅とオートバイ修理技術―価値の探求』を実験小説として捉え、その手法と経緯 と結果が続編の『ライラ―モラルの探求』(Lila: An Inquiry into Morals, 1991) にどのように引 き継がれていくかについて考察する。
17:30〜18:10 第3発表
発表題:哀歌の呪文――ポーの「アッシャー家の崩壊」に響く音楽の物語効果
発表者:河野智子 (神奈川工科大学)
司 会:大木富 (神奈川工科大学)
発表要旨
本発表では、エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」の主人公ロデリックが奏でる音楽
の描写に着目することで、ポーの音楽が、物語の進行を導く序曲としての効果をもつことを論証す る。さらに、物語全体に渡るこの響きが、主人公や語り手のみならず、読者にも影響を及ぼすこと で、我々読者はポーの物語を自在に操ることが可能になるという考察を示す。
五感が異常に敏感になる神経障害を患う主人公ロデリックは、特に音に対して異常に敏感であり、
まるで「吊るされたリュート」のように、張り詰めた弦楽器のような存在である。彼はひとりでは 音を出すことができないが、語り手が彼に接触し、弾き手を得たことで演奏ができるようになり、 ギターを奏でて「魔の宮殿」と題する即興曲を作る。ロデリックが妹マデラインの死を悲しんでい たことから、彼の演奏はその死を悼み弔うための埋葬の哀歌であるように思われるが、葬られたは ずのマデラインは、棺を破って這い上がり、経帷子をまとった姿でロデリックの目の前に現れる。 実は、「魔の宮殿」は、到底、弔いにふさわしい詩ではなく、リュートの調べが乱れた音に変化 し、その不協和音に合わせて物の怪が妖しく動きまわるような、死の世界から何か恐ろしいものが 押し寄せてくる光景が描かれており、死者を弔うどころか、亡者を眠りから呼び起こすような、呪 文のような詩である。マデラインは、ロデリックと語り手がある騎士道物語を読んでいた時に死の 世界から這い上がってくるが、その物語で音の描写が読まれるとき、その音がその場面の実際の音 として聞こえてくる、という奇妙な現象が起こる。まるで不協和音のように物語全体に響くこれら の音の一致は、亡者をこの世に呼びもどす、ロデリックの最後の呪文の言葉を導き、マデラインの 姿が現前する。ロデリックが奏でる音楽は、埋葬の哀歌でありながら、死者を墓から呼び戻すもの でもあり、死者の生死を自在操る呪文を導く序曲である。本発表では、この序曲を奏でるのは、実 は語り手、すなわち読者であると論じ、ポーの物語で描かれる音楽が、我々の心的世界を自在に動 かす呪文を導く効果を持つと論じる。
第152回3月例会
日時:2023年3月11日(土)
会場:昭和女子大学 8号館西棟 2S41教室 (予備:2S42教室)
<研究発表>
16:00〜16:40 第1発表
発表題:英語における特殊な一致現象:岩ア(2023)を起点に
発表者:岩ア宏之 (宇都宮大学)
司 会:中井延美 (明海大学)
発表要旨
岩ア(2023)は、This magazine is too lowbrow [for John1 to claim that he1 reads
___ ]. (Grano and Lasnik (2018: 467)) のような文について、「束縛代名詞を含む that節の補文標識thatはForceの位置で音声素性を持つのみで統語上は不活性の要素で ある」という仮定を導入することによってJohnとheの間の束縛関係を分析した。この仮 定の下では、that節内のTがφ素性を持たないことになるため、主語と動詞の一致に関 して日本語と同様の特性を示すことが予測される。しかし、上の英文において、動詞 readは主語heとの一致によりreadsという形式で具現している。本発表では、このよう な一致現象を特殊なものと考え、この種の特殊な一致を司る仕組みについて提案を行 う。その上で、当該仕組みを他の言語現象へ応用する可能性を探る。
17:00〜17:40 第2発表
発表題:The indexicality of slogans on local souvenirs
発表者:Yutai Watanabe (Hosei University)
司 会:Akiko Mizuno (Takushoku University)
発表要旨
Nowadays there is an increasingly larger amount of locally-produced
merchandise, such as T-shirts and coffee mugs, with slogans featuring a non- standard language form. This paper attempts to analyse the social meanings of the phrases on souvenirs in particular regions of the United Kingdom and Japan. It is revealed that the vocabulary items and grammatical usage are indexically linked with specific speech communities as sociolinguistic markers. At the same time, it is essential for branding purposes that the phrases should be foreign to or likely to be recognised as misuse by standard language speakers outside of that community, although their conceptual meanings are largely comprehensible. The creators of the slogans aim to let customers enjoy showing off their solidarity with the local culture and their in-depth knowledge of its speech.
第151回12月例会中止
第150回6月例会
日時:2022年6月11日 (土)
会場:昭和女子大学 8号館西棟 3S43教室
<役員会>
15:00〜16:15
<研究発表>
16:30〜17:10 第1発表
発表題:大学英語教育としての翻訳―「翻訳セミナー」の成果を振り返る
発表者:相島淑美 (神戸学院大学)
発表要旨
関西の私立大学文学部英文科で12〜13年にわたり「翻訳セミナー」を担当している。毎回30名〜40
名が受講するが、翻訳家志望の学生は1〜2名程度で、翻訳の勉強そのものが初めてという学生が大 半である。英語力にも差がみられる。なお、私 (鈴木淑美) はノンフィクション・評論の翻訳を30 点ほど出版し、プロを目指す社会人向け翻訳講座で教えていた経験から、翻訳セミナーを依頼され た。
本翻訳セミナーは「翻訳家がプロのスキルを教える」授業ではなく、翻訳の学びを通じて、受講生
が英語読解力、日本語表現力を楽しみながら伸ばすことを目的としている。この点で、翻訳の授業 について発表させていただくことは、狭義の翻訳に限らず、広く活用の可能性があると考える。
これまで毎年度、受講生の反応・評価と成長度合いを見ながら授業の方法やコンテンツ等を工夫
し、改善と振り返りを繰り返した結果、この一年はひとつのパターンに落ち着いている。「昨年受 講した先輩に勧められたから(受講する)」と述べる学生も多く、学生の満足度もおおむね高いとい えるのではないか。
本発表においては、私が行ってきた翻訳の授業の様式、コンテンツ、受講生の反応や成果のほか、
学生との双方向コミュニケーションの方法や教室の場づくりについて述べる。翻訳は添削を行うこ とが不可欠であり、そこから教師と受講生の一対一の関係に終始しがちであるが、この授業では 〈受講者どうし皆で成長できる場〉の空気醸成にとくに力を入れている。
これまでに浮上し(解決し)た問題点や工夫、改善のプロセスについて、さらにオンライン授業で翻
訳セミナーを行うポイントやメリットについても触れる予定である。
17:20〜18:00 第2発表
発表題:モリスン『スーラ』における『リア王』の受容
発表者:福島昇 (元日本大学)
発表要旨
トニ・モリスンはシェイクスピアの劇と詩から多くの主題を受容している。例えば、ドロシーア・
ケーラーは間テクスト性の視点から、モリスンの二作目の小説『スーラ』(1973年) がいかに『リア 王』(初演1605年) における三箇所の台詞の影響を受けているか論じる。『リア王』と『スーラ』の 中で、真実と狂気、善と悪、喜びと悲しみ、醜悪と美は対立している訳ではない。対立するものの 中間で堪え忍び、判断を保留することはリアの狂気の世界が真実の世界に変わり、ネルの見えない 世界が見える世界に変わり、ボトムの人たちの絶望は希望に変わることである。社会的区別が消 え、両極性が解体され、愛が無条件に存在する時代を空想するスーラの「あり得ない弁証法」は、 彼女を非難する現代社会の誤った価値観にも向けられている。
本発表では、道化がリアとケントに従い、嵐から逃れる前に観客に向かって言う予言「あらゆる訴
訟が正しく裁かれ…」と、スーラが死の床で彼女の夫と不倫したネルに言う予言「ああ、みんなち ゃんと私を愛してくれるわよ…」に注目する。
第149回3月例会
日時:2022年3月12日 (土) オンライン開催 (Zoom)
<研究発表>
16:00〜16:40 第1発表
発表題:病名及び医療従事者名を通しての接尾辞-ismと-istに関する一考察
発表者:小山田幸永 (東京都立大学)
司 会:岸山睦 (昭和女子大学)
発表要旨
単語の接尾辞である-ismと-istは、それぞれ「主義」「主義者」と訳され、特に-istは
racist (人種差別主義者) のようにマイナスイメージを持つ人物を表す接尾辞として使 用される傾向にある。その一方、scientist (科学者)、linguist (言語学者)、 pianist (ピアノ奏者)といった専門職や研究者で使用され、とりわけdentist (歯科 医)、neurologist (神経科医)、psychiatrist (精神科医)といった医療従事者名でよく 使用される。また-ismは、structurism (構造主義) やromanticism (ロマン主義) とい った学問研究分野、 socialism (社会主義) やcommunism (共産主義) といった主義や 信条で使用される一方、alcoholism (アルコール中毒) やmongolism (「ダウン症」の 以前の名称) といった病名や症状でも使用される。しかしながら、sclerosis (硬化 症) やmyopathy (ミオパチー、筋疾患) のように-ismが使用されない病名や症状名もあ り、physician (内科医) やpediatrician (小児科医) のように-istが使用されない医 療従事者名もある。本研究では、病名や症状を表す-ismと医療従事者を表す-istが、そ れぞれどのような場合に使用されるかを提示し、各接尾辞の持つ性質を明らかにする。
16:50〜17:30 ワークショップ
発表題:大学英語教育が語学を超えるとき
発表者:岩ア宏之 (宇都宮大学)、落合真裕 (十文字学園女子大学)、
須永隆広 (駿河台大学)、橋強 (東海大学)
進 行:中井延美 (明海大学)
総 括:渡辺宥泰 (法政大学)
発表要旨
母語以外の言語を実用的に学ぶことは、一般的に「語学」と呼ばれることが少なくな
い。言語そのもの、つまり「ことば」を科学的に見ようとすると、それは「言語学」と いう領域の仕事になる。また、「ことば」によって表現される芸術作品を研究する仕事 は「文学」を専門とする人たちが担っている。言語学と語学、文学と語学は、本来それ ぞれ親和性が高くて然るべきであるが、実際にはそのように認識されていない場面に 多々遭遇する。幸い、本会には、大学での英語教育に様々な形で取り組みながら、言語 学や文学を専門とする会員が多く所属している。本ワークショップは、言語学・文学の 諸領域に関わる内容が組み込まれた大学英語教育の実践、今後の展望などについて、研 究分野の異なる6人の登壇者が短い話題提供をしたのち、参加者と共に自由闊達に語り 合う場にしたいと考えている。
第148回12月例会
日時:令和3年12月11日 (土)
会場:昭和女子大学 (〒154-8533 東京都世田谷区太子堂1-7-57)
8号館西棟 2S42教室
<役員会>
14:30〜16:00
<研究発表会>
第1発表 16:00〜16:50
発表題:女優とは何か?―Theodore Dreiserと1890年代アメリカの劇場空間
発表者:宗形賢二 (日本大学)
司会:錦織裕之 (元立正大学)
発表要旨
本発表はアメリカの1890年代を中心に、Theodore Dreiserと演劇の関わりを調べ、最初の長編小説
Sister Carrie(1900)の主人公を「女優」に設定した背景を再考するものである。
すでに先行研究では女優選択の理由として、姉のエマ、同級生、兄ポールの友人の娘ルイーズなど
指摘されているが、1890年代という広い視点で俯瞰すれば、たとえば Stephen CraneのMaggie: A Girl of the Streetsにおける演劇場面にも見られるように、劇場空間は都市の娯楽であると共に重 要なメディアとして人々の政治的無意識へも影響を与えていたと思われる。「女優」という存在 は、不安定だが当時の女性にとっては名声と同時に大きな収入を得る数少ない具体的職業であっ た。当然ここにはジェンダーとセクシュアリティと商品化の問題が発生するが、それ以上に都市と 商品と女優の関係は、世紀転換期アメリカ特有の特徴を示していると思われる。女優が劇場を象徴 し、 劇場が都市の中心となっていた時代である。この劇場と対極的な場所として、Hurstwood (Carrieの二人目の愛人) の木賃宿が描かれる。作者のオリジナル原稿では、小説の結末は、この中 年男性のガス自殺で閉じられていた。劇場という空間が人々の思考や感覚にどのような影響を与 え、あるいはどのように位置づけられていたかを、 当時のドライサーのニューヨークを具体的材料 として再考したい。
第2発表 17:00〜17:50
発表題:『デズデモーナ』と『オセロー』―謎のベールに包まれた女性たち―
発表者:福島昇 (元日本大学)
司会:清水純子 (法政大学)
発表要旨
本発表では、ジェンダー、性差別、レイシズム、友情、ポスト植民地主義の視点から、正体がはっ
きりとしない女性たちを中心に考察する。モリスンは謎のベールに包まれた女性たち―エミリア、 バーバリー (サラン)、ブランバンショー夫人、ソウンに目を向け『デズデモーナ』を創作した。4 名の女性は『オセロー』ではわからなかった多くの真実を明らかにしてくれるからだ。その中で も、デズデモーナと「私はあなたの奴隷だった」というバーバリー (サラン) の階級と人種差別に 基づく対話は強烈である。モリスンは『デズデモーナ』の中心人物の一人にバーバリー/サランを 置いているようにさえ思える。それは彼女が黒人であるからだ。モリスンは評論集『白さと想像力 ―アメリカ文学の黒人像』の中で、アメリカ文学を理解するにはその中心に黒人を置き、彼らを文 学的に周辺化させてはならないと主張する。モリスンは黒人性を仔細に眺めて、文学上の白人性の 本性を考察し、アメリカ文学を正しく理解させようとする。モリスンは世界の文学作品の中で、黒 人の表象が誤った形で「再生産」されていると主張し、勝者によって書かれた歴史を根本から再思 考するポスト植民地主義の視座から『デズデモーナ』を創作した。
モリスンはシェイクスピアの『オセロー』では、女同士 (デズデモーナとエミリア、デズデモーナ
とバーバリー) の友情はないと言うが、『デズデモーナ』では、女同士の友情を芽生えさせようと する。モリスンは謎のベールに包まれた女性たちの視点から『オセロー』を修正し、理想的に再構 築し、言わば『オセロー』の続編を創作するのである。
第147回6月例会
日時:2021年6月12日(土)オンライン開催(Zoom)
<研究発表>
16:00〜16:40 第1発表
発表題:18世紀におけるJohn Miltonの受容―John BoydellのThe Poetical Works of
John Miltonを中心に―
発表者:加藤遼子(日本大学)
司 会:福島昇(元 日本大学)
発表要旨
本発表は、18世紀中期から後半にかけ印刷業で活躍したJohn Boydell (1719-1804) が1794年から
1797年にかけて刊行したThe Poetical works of John Milton. With a life of the author, by William Hayley (以下、Boydell版とする。)を中心に、Boydellによる17世紀詩人の再評価と人々 の受容を考えるものである。Boydell版は、Boydellとその甥Josiah Boydell (1752-1827) により刊 行された、17世紀英国詩人John Milton (1608-1674) の詩作品および銅版画で作成された挿絵を収 録した稀覯本である。このBoydell版が出版された18世紀後半、英国はナショナリズムの高まりとと もに自国の素晴らしき作家たちの見直しが行われている最中であり、その中でBoydellは自国の芸術 のレベルを他国(主にフランス)と対等になるようWilliam Shakespeare (1564-1616) の作品を基 に絵画を制作・展示をしたThe Shakespeare Galleryを企画し、大盛況を収めた。18世紀の英国社会 情勢と共にBoydellの自国の芸術発展への貢献を踏まえながら、Miltonの受容を考察していく。
16:50〜17:30 第2発表
発表題:日本とアメリカの野球文化の違いについて
発表者:橋強(東海大学)
司 会:須永隆広(駿河台大学)
発表要旨
今年は、オリンピックイヤーということでスポーツに焦点を当てた研究発表を行います。そこで発
表者が焦点を当てたのが日本とアメリカの両国に共通する野球とベースボールという国民的娯楽に ついて考察を深めていきます。一口に野球といっても日本とアメリカではとらえ方も違うし、考え 方、システム、練習の仕方などどれをとっても異なるのが野球とベースボールです。これらの相違 を文化的な側面と研究データに基づいた数字により研究と考察を含めたものを今回の発表といたし ます。発表では、野球とベースボールの歴史を通して、先行研究を紹介し、ベースボールがどのよ うに日本に定着していったかについて様々な大学の研究者の例を示すことにより、ベースボールか ら野球へと変遷していった過程と日本野球が確立されていった経緯について触れていく予定です。 さらに統計による野球人口の相違など人口統計から紐解き、野球とベースボールの双方の人気度や 礼節を重んじる日本の野球と勝利至上主義の日本の風土との関係、またベースボールはアメリカに おいては個性を伸長するスポーツであり、様々なスポーツの一つであるという考え方、つまり野球 のシーズン以外はバスケットボールやアメリカンフットボールの選手として活躍することなどスポ ーツ文化についてもかなりの相違がみられます。また野球とベースボールに関して親のかかわり方 も大変重要な要素なっていることがデータから垣間見えることとなり、練習や試合への関与など実 際にプレーしている選手以外の面で重要な要素となっていることがわかった。これには練習のあり 方や監督と選手の関係にも多大な影響を及ぼしている。厳しい練習をすることが美徳とされる日本 野球と褒めて伸ばすベースボールとの違いは何であるのか、一概には答えを見出すことはできませ ん。なぜなら文化的な相違があるからです。これらのことについて野球とベースボールとの文化的 な違いを総合的に比較し、独自の観点から発表することとする。
第146回3月例会
日時:2021年3月13日(土)オンライン開催(Zoom)
<研究発表>
15:10〜15:40 第1発表
発表題:ドレの挿絵から読み解く19世紀のParadise Lost
発表者:天海希菜(日本大学・院)
司 会:金子千香(松山大学)
発表要旨
ジョン・ミルトン(John Milton, 1608-74)は17世紀の英国叙事詩人であり、旧約聖書のアダムと
イブの物語を壮大に描いた彼の代表作、『楽園の喪失』(Paradise Lost, 1667)は文学や芸術に大 きな影響を与えた。1668年に出版された第四版からは挿絵が入り、ミルトンの文章をより一層飾り 立て、読者の想像力をかき立てた。18世紀半ばから19世紀にかけては多くの著名な挿絵画家が『楽 園の喪失』の挿絵を手がけており、フランス人挿絵画家のギュスターヴ・ドレ(Gustave Dor?, 1832-83)もその一人である。ドレはフランス、ストラスブールで生まれ、幼い頃から才能を開花さ せた彼は15歳で画家としての仕事を始める。様々な著名な作品の挿絵を手がけたドレの人気はフラ ンス国内に留まらず、ロンドンでも高い評価を受け、1866年にドレの手掛けた挿絵入りの『楽園の 喪失』が出版される。ドレは『楽園の喪失』の中で50点もの挿絵を創作しており、ミルトンの世界 観をより細かく忠実に描いている。繊細で美しいドレの挿絵は瞬く間に評判になり、現代に至るま でもその人気は衰えず、1967年から出版されている論集The Milton Quarterlyでは表紙の絵に採用 されている。また1940年に日本で初めて出版された挿絵入りの『楽園の喪失』にもドレの挿絵が採 用されており、日本人にとっても馴染み深い画家である。本発表では、このドレの手掛けた『楽園 の喪失』に着目し、ミルトンの世界観をどのように描いているかを分析し、また彼の挿絵から19世 紀でどのように『楽園の喪失』が捉えられていたのかを考察していく。
15:50〜16:20 第2発表
発表題:外国語教育における文学の教育効果
発表者:河野智子(神奈川工科大学)
司 会:中川洋子(駿河台大学)
発表要旨
本発表の目的は、外国語教育において文学教材を利用することの意義を問いなおし、文学を用いた
教育実践が、言語習得に重要な役割をもつメタ言語の育成にも寄与すると論じることである。
昨今の日本の外国語教育では、母語ではなく目標言語を媒介として言語を習得するダイレクト・
メソッドが推奨されている。これは、外国語教育の主な目的が、1980年代に生じたコミュニケーシ ョン能力育成主義の流れにより、伝達能力の育成を中心とするものになってきたことに起因する。 かつて日本の教育現場で伝統的に採用されてきた文法訳読法は、迅速な言語習得ができないという 理由で排除される傾向にあり、テキストの精読が必須となる文学作品を扱う授業は、あまり推奨さ れてはいない。しかしながら、文学作品は思考力を伸ばすには最適な教材である。1980年代から 1990年代にかけて批評理論が世界的に隆盛を極めると、文学や文学研究の価値が再評価され始め、 1990年代の英米で外国語教育に文学教材を取り入れる傾向が復活し、言語習得における文学教材の 役割についての議論も活発に行われるようになってきた。本発表では、思考力の養成に多大な貢献 をする文学は、言語習得に必要なメタ言語能力の育成にも適していることを論証するために、具体 的な教育実践例に言及しながら、文学教材のもつ教育効果を追求する。
16:30〜17:00第3発表
発表題:An ELF Model and Its Limitations in Japanese ELT
発表者:渡辺宥泰(法政大学)
司 会:中井延美(明海大学)
発表要旨
An ELF Model and Its Limitations in Japanese ELT
Applied linguists have extensively discussed incorporating the ever-growing use of L2
English within the scope of ELT, as inspired by Kachru's (1985) Three-Circle model of World Englishes (WEs) and the paradigm of English as a lingua franca (ELF) (e.g., Jenkins, 2000, 2007) in particular. In reflection of sociolinguistic interest in the non- native speakers' co-ownership of English, ELT experts in Japan have increasingly enhanced awareness for WEs/ELF and the elimination of deeply entrenched native- speakerism. However, their efforts have not resulted in the improvement of learners' general proficiency in English and confidence in 'Japanese English'. In an attempt to recognise the limitations of an ELF model, the author conducted a questionnaire with advanced level learners; it reveals that their predominant preference towards US English is solidly founded on an instrumental impetus, rather than a mere lack of understanding about ELF. Additionally, the ideal proficiency for classroom teaching targeted by MEXT is too low to implement the ELF approach effectively.
第145回12月例会
日時:2020年12月12日(土)オンライン開催(Zoom)
<研究発表>
15:40~16:10 第1発表
タイトル:筆記試験における語彙の発音測定と、対面面接による口頭試問との相関関係
発表者:山西敏博(長野大学)
司 会:中井延美(明海大学)
発表要旨
本発表は、発音問題における筆記試験による妥当性を測定することを目的とする。
一般的に英語の試験は様々な形式の設問で成り立っている。下線部和訳を始めとして、和文英訳、
語順整序、内容要約、内容真偽など多種多様である。その中で発音の強勢に関する問題もこういっ た英語の問題に含まれており、とりわけ日本においては、中学校での定期試験問題から大学の入学 試験問題に至るまで幅広く出題されている。通常、これまでは時間的な制約や物理的な効率の関係 から、対話(スピーキング)能力の測定がなかなかできにくいことから、一般的にはこの形式で発 音の能力を測る代替物とされている傾向にある。
一方、近年、筆記試験において受験生が実際にこのような発音問題を解答するにあたって、本当に
その能力が測られているのかどうかといった関心が高まり、その妥当性も指摘されてきている。加 えて研究者によると、その妥当性には疑問を呈しているものも現れてきている。こういった一連の 流れから、本稿では発音問題の筆記試験による妥当性を測定することを目的とする。
16:20~16:50 第2発表
タイトル:トニ・モリスン『タール・ベイビー』におけるシェイクスピア『テンペス
ト』表象の変遷 ――無知の罪について
発表者:福島昇(日本大学)
司 会:木内徹(日本大学)
発表要旨
1981年、トニ・モリスンはシェイクスピアの戯曲『テンペスト』(1611)をポスト・コロニアリズ
ムの視点から批判し、長編小説『タール・ベイビー』を著した。
マリン・ラボン・ヴァルターは『タール・ベイビー』をメレディス・アン・スクラが主張する修
正主義の立場から、『テンペスト』の改訂版(リビジョン)として捉え、「キャンデー王ヴァレリア ン・ストリートをいかさま魔術師プロスペローと、両親を亡くしたジェイディーン・チャイルズを 母親を亡くしたミランダと、サンを野蛮なキャリバン」と解釈している。プロスペローが劇の最後 で「この闇の子[キャリバン]は私自身だ」と告白する場面がある。テリー・オッテンは著書『ト ニ・モリスンの小説における無知の罪』の中で、「無知はそれ自体が罪のしるしである。なぜなら ば無知は堕落した黙認を示すからだ」と言っているが、その主張はプロスペローの「この闇の子は 私自身だ」と深い関係がある。なぜならば、プロスペローの告白は自己発見、自己暴露、罪の告 白、あるいは犠牲を払って責任を受け入れることを暗示しているからだ。プロスペローは島の先住 民キャリバンを奴隷にするという罪を犯した。ヴァレリアンも息子マイケルに、また使用人に対 し、故意に潔白なふりをして人権を無視した態度をとってきたが、自分の無知の罪に忌まわしさを 感じている。本発表では、プロスペローとヴァレリアンの無知の罪について、その影響関係を論 じ、『タール・ベイビー』がポストコロニアル批評の重要なテキストである『テンペスト』をいか に表象しているのか、スクラやヴァルターやオッテン等の主張を手がかりにプロスペローとヴァレ リアンの無知の罪について考察する。
第144回12月例会
日時 令和元年12月14日(土)午後4時〜6時
場所 昭和女子大学8号館2S42教室
<研究発表>
午後4時〜4時50分
(1)発表者 川嶋正士(日本大学)
司会者 水本孝二(日本大学)
発表題 「Henry Sweet (1891/1898) における規範性と Onions (1904) における
科学性」
発表要旨
本発表では、「5文型」に関する史的研究の一環として「5文型」の誕生期における規範文法と科
学文法の交錯について考察する。
現在の「5文型」の原型とみられる文の五公式を提唱した細江(1917)は、その序文で当時隆盛しつ
つあった科学文法の始祖である Henry Sweet への傾倒を表す。しかし、細江が同著の原典としたの は、科学文法によって否定された規範文法の枠組みで書かれた Onions (1904) であった。
当時は、この2種の文法学について現在の理論言語学と実践(学校)文法においてなされるような
明確な区別がなされなかった。Sweet の経験科学的なアプローチは、主として英国の諸方言や歴史 的言語変化にみられる第1次資料を観察することに限られ、品詞分類や統語分析は旧来の規範文法の 体系に依拠した。
また、規範文法も当時の実証的な研究の影響を受け、言語事実を虚心坦懐に見つめ、記述する傾
向がみられるようになった。Onions は規範文法がその存在を認めなかった分離不定詞(Split Infinitive)を初めて公式に認めるなど、科学的な姿勢を取った。
これらの交錯は、細江(Op. cit.)において昇華され、日本語で書かれた体系的な「科学文法
書」の嚆矢となり、のちの日本の英語教育や英語学に強い影響を与えることとなった。
午後5時〜5時50分
(2)代表発表者 渡辺宥泰(法政大学)
共同発表者 中井延美 (明海大学)
司会者 岸山 睦 (昭和女子大学)
発表題 「CEFRと英語民間検定試験を巡る諸問題について」
発表要旨
本ワークショップでは、大学入試改革における直近の動向を踏まえ、英語民間検定試験(以下,
検定試験)を巡る諸問題について、渡辺・中井が議論のための材料を提供するかたちで、フロアの 皆さまと認識を共有したいと考えている。大学入学後の英語教育の方向性にも関わる検定試験は、 「語学科目」として英語を教授する機会の多い本学会会員にとっても看過できないテーマである。
9月の全国大会で企画されたシンポジウムは、大学における英語教育の意義と目的を再認識する狙い
があった。そこでは英語教育の理念と検定試験の受験対策は異なる次元にあることが確認されてい る。一方、大学入学共通テストへの検定試験の導入見送りという唐突な政府決定が、高校生と教育 関係者を唖然とさせたことは記憶に新しい。
近年、CEFR、EMI、ELF、CLIL等、言語教育に関わる概念が正確な理解なく一人歩きしている観があ
る。例えば、各種検定試験の枠組みであるかのように語られるCEFRは、当該言語の運用力を日常的 な言葉で記述したものであり、本来、数値化・点数化を想定していない。そもそも複言語使用が日 常化しているヨーロッパで策定されたCEFRが、英語を外国語として学ぶ日本の言語環境に相応しい かどうかについても十分な議論はなされていない。
発表の手順として、まず中井が、結果が数値化されスコアで示される検定試験を取り入れている教
育現場の問題を提示し、続いて渡辺が、社会言語学的背景を考慮せずにCEFRを拠所にするという国 内検定試験の矛盾点を指摘する
第143回6月例会 日時 令和元年6月8日(土)
場所 昭和女子大学8号館2階2S41
<研究発表>
(1)発表者 小野雅子(國學院大學)
司会者 本間章郎(駒澤大学)
発表題 『響きと怒り』における門と柵の表象―ベンジーとのかかわり
発表要旨
柵(fence)とは、 "a means of protection" "a barrier intended to prevent escape or
intrusion or to mark a boundary" である。門(gate)とは、"an opening in a wall or fence" である。『響きと怒り』の冒頭は、知的障害を持つベンジーが、柵の向こうのゴルファーを見、ま た柵に沿って歩く印象的な場面で始まる。柵は、ベンジーが幼いころ、姉とキャディとともに、く ぐったことを振り返る場面にも出てくる。他方、復活祭の日、ディルシーとともに門を出て、教会 に行こうとする時、ベンジーは泣き止むが、教会から帰ってきて、門をくぐった途端、ベンジーは 泣き始める。なぜ、ベンジーが門をくぐって外に出ると泣き止み、帰宅して門をくぐると泣くの か、フォークナーは書いていない。柵については、ベンジーがゴルファーの呼ぶ声、キャディに、 姉のキャディを思い出し、泣くというように、研究者によって、指摘されており、確かにその通り である。しかし、柵にしろ、門にしろ、それらは、外の世界の干渉からコンプソン屋敷を守り、同 時に、外の社会との接触を阻む役割を果たしているのではないか。今回の研究発表では、何を守 り、何を妨げているのかという観点から、柵と門の表わしているものを、特にベンジーとのかかわ りから考えていきたい。
(2)発表者 福島昇(日本大学)
司会者 木内徹(日本大学)
発表題 トニ・モリスン『タール・ベイビー』(I98I)におけるシェイク
スピア『テンペスト』の受容--ポストコロニアリズムを問い直す
発表要旨
1981年、モリスンはゴールドバーグらが言うように『テンペスト』の影響を受けて『タール・ベ
イビー』を翻案します。本発表では、キャリバンとサン、プロスペローとヴァレリアン、ミランダ とジェイディーン、サンとジェイディーンとの影響関係、最後にキャリバンは誰なのかについて、 ポストコロニアルな視点から発表します。タール・ベイビーとは「タールの塊に服を着せボンネッ トをかぶせた人形に、いたずらウサギがくっついて離れなくなってしまうが、賢いウサギはなんと かその状況から抜け出す」というアメリカの民話集から取ったものです。つまり、モリスンが言う ように、「黒人ジェイディーンがタールを塗られた人形であり、黒人サンがウサギです」。
『テンペスト』のプロスペローとミランダが西インド諸島の小さな島に漂着したように、サンも
キャリバンがかつて住んでいた西インド諸島の小さな島に漂着します。プロスペローとミランダが 見たのは島の美しい浜辺であり、先住民族のキャリバンであり、エアリエルですが、サンが見たの は300年前、奴隷たちがそれを見た瞬間、眼が潰れてしまった島の浜辺とアフリカから奴隷として連 れてこられ、大規模農業主に買われ、その元で農奴として働いたアフリカ人の子孫たちです。モリ スンはポストコロニアルな側面から『テンペスト』と『タール・ベイビー』を結びつけますが、 『タール・ベイビー』を『テンペスト』のようには、ハッピーエンドの形で終わらせません。モリ スンはヴァルターが主張するように、『テンペスト』について「理想的」な読み方と「修正的」な 読み方をし、『テンペスト』をこの二つの読み方の交差点におき、『タール・ベイビー』の登場人 物ヴァレリアンの中にプロスペローを、ジェイディーンにミランダを、サンにキャリバンの像を見 て、プロスペロー=ヴァレリアンの欧米中心主義的基準に疑問を呈しています。
第142回3月例会 日時2019年3月9日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学)8号館(2S41)
<研究発表>
(1)発表者 須永隆広(昭和女子大学)
発表題 エンプソンの ‘argufying' − ‘argufying'による批評家エンプソンの
出発点
司会者 岸山 睦(昭和女子大学)
ウィリアム・エンプソン(William Empson)が ‘argufying' という語を初めて用いたのは、第二の
著書、Some Versions of Pastoral(1935)であり、続くThe Structure of Complex Words(1951)や Using Biography(1984) の中でも用いているが、どの著書においても、‘argufying' に焦点を当て た議論が存在すると言えるようなものではなく、むしろ、意識していなければ見逃してしまう程度 の存在でしかないように感じてしまう。しかしながら、彼は、‘Argufying in Poetry’ と題した 論文において、‘argufying' が低次元な語であると述べつつも、詩を読む際には必ずと言ってよい ほど見出せる議論であると述べていることから、彼が、以前から ‘argufying' という語に意識を 持っていたということが分かる。したがって、本発表では、これまでの自身の研究において定義し た「異質でありながらも同質である」というエンプソンの ‘argufying' と解釈できる箇所を見出 し、Seven Types of Ambiguityだけでなく、Some Versions of Pastoral や The Structure of Complex Word、およびUsing Biographyを通して、エンプソンが用いた ‘argufying' と解釈できる 対立概念が、彼の批評の終着点ではなく、出発点であるということを述べていく。
(2)発表者 中川洋子(駿河台大学)
発表題 小学校学習指導要領外国語活動・外国語」(2017年改訂)の課題
司会者 水野晶子(拓殖大学)
本発表は、日本人の英語観分析の一環として、小学校英語教育の課題について検討するものであ
る。2020年から小学校の3・4年生で「外国語活動」が、5・6年生で「外国語科」が導入される。本 発表では、今回の学習指導要領改訂で加筆された「身近で簡単な事項」の意味と、新学習指導要領 の作成に大きな影響を与えたCEFRの扱い方について考察した。
その結果、「身近」な題材には検討の余地があること、CEFRを支える複言語主義の理念への配慮が
ないまま、CEFRを言語学習の到達目標と評価基準に利用しているといった問題を明らかにした。ま た、効果的な英語教育を目指す過程で、目的別学習という一つの試論を提示する。
第141回12月例会 日時 2018年12月8日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学(7号館7L04教室))
<研究発表>
午後4時40分〜午後5時30分
(2)発表者 渡辺 英依美(Cardiff University)
発表題 English-Japanese bilinguals' vocabulary size: A case
study
司会者 小野雅子(明海大学)
It has been claimed that bilinguals have a smaller vocabulary size than monolinguals.
However, many studies have focused on bilinguals of English and another European language. The present study investigated whether the claim was also true for English and Japanese bilinguals. Participants were 11 English monolinguals, 12 Japanese monolinguals and 10 English-Japanese bilinguals who were born and/or had lived in an English-speaking country before the onset of puberty and were constantly exposed to both languages in daily life.
The results confirmed the previous view on the bilingual disadvantage, but only in
reference to the less frequently used English words. The bilinguals were advantaged over the Japanese monolinguals in two tests on Japanese active vocabulary and no significant difference was observed between them for passive vocabulary. The weaker links hypothesis (Gollan et al., 2008) was proved in the use of English vocabulary, while the competition hypothesis (Dijkstra, 2005) was also supported in some Japanese vocabulary tests.
第140回6月例会 日時 2018年6月9日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学(8号館5階5L44教室))
<研究発表>
午後4時〜午後4時50分
(1)発表者 清水純子先生(法政大学)
発表題 サイコホラーとして読み解く 川端康成 の『美しさと哀しみと』
司会者 錦織裕之先生(元立正大学)
午後5時〜午後5時50分
(2)発表者 中井延美先生(明海大学)
発表題 「hospitality」と「ホスピタリティ」
司会者 佐々木隆先生(武蔵野学院大学)
第139回3月例会 日時 2018年3月10日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学80年館(西棟)5L44教室
<研究発表>
午後4時〜午後4時50分
(1)発表者 福島昇先生(日本大学)
発表題 トニ・モリスン『青い眼がほしい』におけるシェイクスピア『ハムレッ
ト』の受容について---「私たちのイノセンスも死んだ」---
司会者 清水純子先生(法政大学)
午後5時〜午後5時50分
(2)発表者 木内徹先生(日本大学)
発表題 イシュミエル・リードの『春までの日本語』における新ヴードゥー主義
司会者 清水純子先生(法政大学)
第138回12月例会 日時 2017年12月9日(土)16:00〜18:00
場所 駒澤大学駒沢キャンパス9号館173教場
<研究発表>
発表者 水本孝二(日本大学)
発表題 発表題 英語前置詞の多様性:aboveとover について
司会者 岸山睦 (昭和女子大学)
発表者 伊藤由紀子 (東京電機大学)
発表題 Lessons Learned from the Recent Issued Books on Japanglish
司会者 中井延美(明海大学)
第137回6月例会 日時 2017年6月17日(土)16:00〜18:00
場所 駒澤大学駒沢キャンパス9号館287教場
<研究発表>
発表者 染谷昌弘(東洋大学)
発表題 発表題 The Foxとirony
司会者 加藤英治(法政大学)
発表者 岩崎宏之 (茨城県立医療大学等(非)
発表題 英語史におけるthat痕跡効果に関する一考察:その出現時期をめぐって
司会者 岸山 睦(昭和女子大学)
第136回3月例会 日時 2017年3月11日(土)16:00〜18:00
場所 駒沢大学駒沢キャンパス8号館258教室
(1)発表者 Yutai Watanabe先生(法政大学)
発表題 The Concept of EIL in the Suggested Course of Study in English
(1947/1951)
司会者 中井延美先生(明海大学)
(2)研究報告Yutai Watanabe先生(法政大学)
発表題 English as a Lingua Franca in Japan: A Brief Comparison with
Mainland Europe
司会者 中井延美先生(明海大学)
第135回12月例会 2016年12月10日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学80年館西棟2S41教室(2階)
(1)発表者 藤木智子先生(日本大学)
発表題 『ロミオとジュリエット』ー周縁の人々の祝祭性
司会者 福島昇先生(日本大学)
(2)協議・話し合い(諸議題あり)
第134回6月例会 2016年6月18日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学80年館西棟4S41教室(4階)
「18世紀末から19世紀初頭における、イギリス文学とドイツ文学との関係
――主としてコウルリッジとドイツ文学者とを巡って」
発表 大正大学 高山信雄
司会 法政大学 日中鎭朗
第133回3月例会 2016年3月19日(土)午後4時00分〜午後6時00分
場所 昭和女子大学80年館西棟3S41教室(3階)
(1)英語の前置詞句主語構文の習得と通時変化:統一的枠組みの構築に向けて
発表 筑波大学 岩崎宏之
司会 明海大学 中井延美
(2)マーク・トウェイン、C・D・ウォーナー『金メッキ時代』
――作品から読み取る著者の時代との向き合い方
発表 元立正大学 錦織裕之
司会 昭和女子大学 須永隆広
第132回 2015年12月12日(土)午後4時00分〜6時00分
昭和女子大学80年館西棟4S41
(1)ジョージ・エリオット作『ダニエル・デロンタ』
ーーロマンスと現実:東洋仏教文化の瞑想ーー
発表 駒澤大学 高野秀夫
司会 東洋大学 大野直美
(2)Portfolio Assessment for Academic Skills in English Reading Classes
発表 昭和女子大学 Kristie Sage
司会 明海大学 中井延美
第131回 2015年6月13日(土)午後4時00分〜6時00分
昭和女子大学80年館西棟3S41
(1)「英語資格試験に関する一考察ーー数値化された結果から見えるもの」
発表 明海大学 中井延美 野上文子
司会 拓殖大学 水野晶子
(2)English as a lingua franca: Perspectives and issues in the Japanese
ELT context
発表 法政大学 Yutai Watanabe
司会 昭和女子大学 Kriste SAGE
第130回 2015年3月14日(土)午後4時00分〜6時00分
昭和女子大学80年館西棟3S41教室
(1)「医療英語における日常語の専門的使用に関する考察」
首都大学東京 小山田 幸永
司会 昭和女子大学 岸山 睦
(2)『パミラ』から『トム・ジョーンズ』へと至る道ー『ジョウゼフ・アンドリュー
ズ』を経由して
駒澤大学 白鳥 義博
司会 十文字学園女子大学 落合 真裕
第129回 2014年12月13日(土)午後4時00分〜6時00分
昭和女子大学<研究館>6S02教室
(1)『牧師の娘たち』と『脱構築』
東洋大学 染谷 昌弘
司会 法政大学 加藤 英治
(2)「英語の教材研究:ポップカルチャーの活用〜アニメ・マンガを中心に」
駒澤大学 白鳥 義博
司会 錦織 裕之
第128回 2014年6月14日(土)午後4時00分〜6時30分
日本大学通信教育部1号館地下会議室B
(1)リチャード・ライト研究年表―大宰治研究年表との比較において
(2)English as a Medium of Instruction: EU and ASEAN
第127回 2014年3月8日(土)午後4時00分〜6時30分
津田沼キャンパス37号館301教室(正面8階建ての建物
(1)Being Perceived as a ‘Native English Speaker’
法政大学 渡辺 宥泰
司会 昭和女子大学 クリスティー・セージ
(2)A Masque presented at Ludlow Castle, 1634 に関する一考察
―『1645年版詩集』における位置づけ
日本大学大学院 桶田 由衣
司会 東洋大学 石和田 昌利
第126回 2013年12月14日(土)午後4時00分〜6時20分
(1)コールリッジの批評の原点
大正大学 高山信雄
司会 法政大学(元)山岸二郎
(2)英語の授業での成功体験を――授業の中での様々な試み――
拓殖大学 水野晶子
司会 明海大学 中井延美
第125回 2013年6月8日(土)午後4時00分〜6時20分
(1)「小学校英語実践報告」〜音声面における誤用についての一考察〜
(2)ラティガン劇におけるユーモア ハリクイネードの場合
第124回 2013年3月9日(土)午後4時00分〜6時20分
日本大学通信教育部1号館303教室
(1)Paradise Lostにおける "evil" と "pain"
(2)イーディス・ドンビーは「高慢」か―『ドンビー父子』再考―
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